栽培方法

「無肥料、無農薬で栗を育てています」なんて聞くと、なんだか爽やかな風が吹いているような、健康的なイメージを抱く人もいるだろう。しかし、残念ながら、栗の畑に爽やかな風なんてものはあんまり吹いちゃいない。吹いているのは、クリミガという、とんでもない極悪非道な虫との「終わらない戦い」がもたらす、冷たい風ばかりだ。

正直に言おう。うちの栗が一般的な栗よりもやけに高いのは、私がとんでもなく強欲だからではない。そうではなく、この「無肥料無農薬」というまるで修行僧のような栽培方法が、もう、とんでもなく非効率で、まるで割に合わない泥沼の仕事だからなのだ。まずはその恐ろしい現実から話さなければならない。

虫だらけの栗畑という「魔窟」

前提として、栗という果実は、虫にとってまるで高級レストランか、もしくは夢のマイホームか、それくらいの魅力があるらしい。放っておけば、奴らはワラワラと集まってきて、あっという間に畑を食い荒らす。普通の農家はここで防除、つまり農薬をガツンと散布して、奴らを問答無用で叩き潰すことになる。殺虫剤という文明の利器を使えば、栗の実は立派に育ち、収穫量はグンと安定する。

だが、私は農薬というものを使わない。そうすると、奴ら、特にクリミガという、栗農家にとってこの世で最もタチの悪い虫が遠慮なく、本当に遠慮なくやってくるのだ。

いがの中にいるクリミガの幼虫

クリミガというのは、栗の実がまだ青いうちに卵を産み付ける。そして収穫の頃になると、その幼虫が実のなかをグルグルと食い荒らし、用が済んだら穴を開けて外に出ていく。もう、まったくもって悪魔的な連中だ。食い荒らされた栗は、当然、商品にはならない。

そして、クリミガのタチの悪いところは、その後、地面に落ちた栗の実やイガから出てきて土の中で越冬しやがることだ。つまり、食べ残しを放っておくと、翌年また成虫となって舞い戻り、私の栗畑に卵を産み付けるという「クリミガ無限ループ地獄」に陥る。

だから、防除している農家だろうが、私のような無農薬農家だろうが、全ての栗農家に共通する、絶対に逃げられない作業がある。それが、落下した全ての栗の実とイガを、文字通り「根こそぎ」拾い集めるという、気が遠くなるような仕事だ。

地獄の作業量は変わらず、収穫量はドスンと落ちる

もし、私が農薬を一切使わずに、この無限ループ対策をサボったらどうなるか。

私のこれまでの経験上の数字を言うならば、無農薬栽培は、農薬で防除していた時と比べて、収穫量がなんと5分の1にまで激減する

恐ろしいだろう? 1トンの栗が収穫できていた畑で、たった200キロしか採れないのだ。この現実を知って、栗の無農薬栽培をしようと思う人が果たしているだろうか。

だが、もっと恐ろしいのは、この絶望的な収穫量の減少に対して、畑での作業量がまるで減らないということだ。

前述の通り、来年のクリミガのリスクを減らすため、私は虫に食われた栗のイガと実を、文字通りすべて、畑から拾い集めなければならない。中身が空っぽだろうが、幼虫が這い出てきた穴が空いていようが、拾い集めて処分する作業は、全く変わらないのだ。

つまり、こうなる。

収穫の作業量は、一般的な農園と同じ。出荷できる栗の量は、その「5分の1」程度。

拾い集めた栗のほとんどを、悔しいが「処分」しなければならないのだ。出荷できるのは、その中から、かろうじてクリミガの魔の手を逃れた「選ばれしエリート栗」だけ。

中核をなす労力は変わらないのに、出荷できる数が激減する。そうなれば、当然、栗一粒あたりの単価は、従来の5倍以上でなければ、経営としてまるで成り立たない

これが、うちの栗が高い、最も単純で、最も泥臭い理由だ。

もちろん、このまま指をくわえてクリミガにやられっぱなしというわけにはいかない。無農薬栽培を続けるなら、農薬に頼らず虫の被害を抑える、「新しい防除方法」を、私自身が血眼になって考え出し、そして実践し続けなければならないのだ。

そして私が現在試みている「新しい防除方法」――。それはまた、別の話。