先日、一通の温かい手紙をいただいた。 それは、当園の能登栗をご購入くださったお客様からの、丁寧な、それでいて心のこもったお礼の言葉であった。 正直なところ、農家として、これらのことに対するこれ以上の喜びはない。本当に、そ …
山での仕事は、自然との対話だ。朝靄が晴れると同時に始まる作業は、泥と汗と、そして時に鬱陶しい羽音との戦いでもある。夏の盛りを過ぎ、秋の気配が濃くなる十月前半、そろそろその必要もなくなるかと思いきや、山を甘く見てはいけない …
秋です。まったく良い季節であります。空は青くて、風は気持ちがいい。ただ、私のような栗農家にとって、この季節の到来は戦争の始まりを意味するのです。 栗拾い、なんて聞くと、多くの人はマロンチックなイメージを持つかもしれません …
私はこの能登の地で、誰とも同じではない、たったひとつの栗を育てている。 他の農家から見れば、私は「とんでもないやつ」だろう。なぜなら、栗に肥料も農薬も与えていないからだ。 栗というやつは、とにかく虫に好かれる。 特に、収 …
能登はまたしても豪雨に見舞われた。8月の半ばというのに、空は鉛色に重く垂れ下がり、けたたましい音を立てて雨粒が地面を叩きつける。本来なら、からりとした夏の空が広がり、海から賑やかな声が聞こえてくる頃だというのに。 農道は …
その日は青年会の集まりがあって、ちょっと早めに来て手伝ってくれって頼まれていた。「了解」と伝え、軽トラのエンジンをかけ山を降りようとしたら、なんか右の後ろのタイヤがヘニャっとしてる。 「ああ、パンクか……」 幸い、山に道 …
なんだか、ここ最近、書類とにらめっこする時間が異常に増えていた。登記簿だの名寄せだの、普段の暮らしではほとんど縁のない書類が、日に日にデスクに集まってくる。 今回の一件、私が人生で初めて挑む「農地の売買」というやつで、こ …
愛知県の高級住宅街から、そいつは我が家へやってきた。 9歳になるジャーマン・シェパードのフィータだ。 元々いた家の方が引っ越しのため手放すという話を聞きつけ、私が引き取ることにした。8歳だったそいつを車に乗せて連れてきた …
2024年、能登半島・珠洲市にある栗園を3代目として引き継いだ。この栗園はもともと地域の人々が大切に育て、信頼する知人が管理を引き継いでいたものだ。しかし、奥能登地震で多くの人が被災し、栗園の管理も難しい状況に陥った。そ …
能登半島の先端、珠洲の地で、私は新たな一歩を踏み出した。農地を買う、ということ。 都会で宅地を買うのとはわけが違う。農地には「農地法」という、古くて固い法律の壁が立ちはだかっている。食糧生産の基盤である土地を、好き勝手に …









