珠洲の農地と開墾記

能登半島の先端、珠洲の地で、私は新たな一歩を踏み出した。農地を買う、ということ。

都会で宅地を買うのとはわけが違う。農地には「農地法」という、古くて固い法律の壁が立ちはだかっている。食糧生産の基盤である土地を、好き勝手にいじらせないぞ、という国の強い意志がそこにはある。

この法律の第三条の定めによって、農地の売買には必ず「農業委員会」というものの許可が必要になる。珠洲の農業委員会は、役場の中、産業振興課の片隅にある。

毎月八日頃に締め切られ、十五日頃に現地確認、月末に可否判断。この独特なリズムに合わせて、こちらも書類を揃えたり、あれこれと頭を巡らせたりしなければならない。


許可への四つの関門

許可をもらうためには、四つの条件をクリアする必要がある。

一つ目、「一定以上の面積を耕作している人」。

これが私にとって最初の難関だった。なにせ初めての農地取得だ。耕作実績などあるはずがない。

しかし、ここで心強かったのが、売主や前の管理者の存在だ。地元で顔の利く彼らが、私の背中を押してくれた。

そして、農業委員会の委員長が放った一言が、今でも心に残っている。

「人口が減って耕作放棄地が増える珠洲で、新たに農業を始めようとする若い者がいるのなら、応援してやらないかんやろ」

いかにも保守的な田舎の組織と思いきや、これほどはっきりと明言してくれる委員長には、正直なところ痺れた。

もちろん、彼らが適当に判断しているわけではない。私の場合は県の機関である事業承継センターからの強力な後押しがあった。田舎では、こうした信頼できる機関や、地域で徳のある人の支えが、物事をスムーズに進める上で非常に重要なのだ。

二つ目、「珠洲市に住所を有し、居住している人」。

これは問題なかった。私の住民票は、とっくにこの珠洲に移してあったからだ。

三つ目、「申請された農地から居住している場所までの距離」。

これも珠洲市内に住んでいれば、特に厳しく問われることはないだろう。

四つ目、「耕作を目的としたものでなければなりません」。

私の場合は、元々あった果樹園の事業継承だったので、この条件も難なくクリアできた。


書類の山を越える

さて、いよいよ書類集めだ。これがまた、なかなかの骨折り仕事だった。

珠洲市の農業委員会のウェブサイトから、申請に必要な書類リストをダウンロードした。売買の場合、ざっと見て以下の五点が必要だ。

  1. 第三条許可申請書
  2. 登記事項証明書(登記簿謄本)
  3. 買い受け人の住民票
  4. 付近見取り図
  5. 公図

特に厄介だったのが、登記事項証明書(登記簿謄本)と公図だ。

まず、対象となる農地の番地を特定するのに苦労した。Googleマップに住所を打ち込んでも出てこない。いくつもある公図と現代地図を照合するサービスも、田舎では対応していないことが多い。

「この土地で本当に合っているんだろうか…」という不安と戦いながら、税務課で売主さんの名寄(なよせ)を調べたり、あれこれ手を尽くした。

そして、登記簿謄本だ。ネット申請が一番楽で、安くて、しかも早い。だが、取得する農地が何筆(なんぴつ)にも分かれている場合、その数だけ証明書が必要になる。私の場合はかなりの数があり、それだけで一万円以上が飛んでいった。

もう一つの難敵、公図は、市の税務課で取得できる。番地ごとに取得する必要はなく、ある程度の範囲を一枚でカバーしてくれる。初めてだと少し分かりにくいかもしれないが、窓口で尋ねれば、親切に教えてくれるはずだ。

これらの書類を全て揃え、いざ農業委員会へ。毎月八日頃までに提出すれば、十五日頃に現地確認が行われる。いよいよ、私の開墾記の序章が終わろうとしている。

次回は、現地確認から農地取得の許可が下りるまでの話をお伝えしたい。