なんだか、ここ最近、書類とにらめっこする時間が異常に増えていた。登記簿だの名寄せだの、普段の暮らしではほとんど縁のない書類が、日に日にデスクに集まってくる。
今回の一件、私が人生で初めて挑む「農地の売買」というやつで、これがもう、なかなか大変な試みだった。
さて、農地といえば、当然、場所の特定が肝心だ。登記簿とにらめっこして、番地まできっちり掴んだ。うん、完璧だ、と一瞬思った。
ところが、である。
その完璧なはずの住所を、公図と照らし合わせてみたものの、これがどうにもサッパリわからない。公図は現代の私たちが使う地図とはまるで勝手が違う。どこがどう繋がってるのか、どの道が、どの森が、今どこにあるのか、皆目見当がつかないのだ。そもそも空白だらけで目印になるものがない。
「これ、一体どうやって現地確認するんですかね?」
頭を抱え、役場の担当者に相談してみたら、意外な答えが返ってきた。
「近所に住む昔からの農家さんに聞くのが一番ですよ」。
なるほど、これは活きた地図、いわば「人体GPS」というやつだ。私の土地の近所に、古くから農業を営んでいる方がいると教えてもらい、早速、彼の家へと向かった。
田舎の常識とも言える、チャイムを無視し、鍵の掛かっていない扉をガラっと開けて「こんにちわーーー!」と叫ぶ。
古老の記憶が紡ぐ土地の物語
教えてもらった農家さんは、物腰の柔らかいじいさんだった。私が事情を話すと、彼はニヤリと笑い、「ほうほう、あんたがやるんか、いいこっちゃ」と言い、指先で空に何かを描きながら「ああ、あそこの、あの土地だな」と、あっさり私の土地の位置を言い当ててくれたのだ。
さらに驚いたことに、彼は今の時期では草が深く、とても入っていけないことまで教えてくれた。ただの場所確認のつもりが、思わぬ「現地情報」まで手に入ったのだ。
立ち話は続き、その土地で昔は何を作っていたのか、どういう方法で耕していたのか、そもそも誰の土地だったのかまで、まるで物語を聞かせるように、詳細な過去を教えてくれた。役所の書類だけでは決して知り得ない、土地の息吹のようなものだ。
この一連の出来事を通じて、私は痛感した。役所や行政の資料だけでは、土地の売買はままならないことがあるのだと。そして、「終活」――自分の土地や財産を整理しておくこと――がいかに大事か、骨身に染みた。
余談だが、今回の取引、契約直前でいくつかの土地に問題が発覚し、結局、売買を中止せざるを得なくなった物件もあった。
これも驚くべきことに、現所有者さえ把握していなかった問題で、その根っこを辿れば、なんと明治時代にまで遡るトラブルだったのだ。時代を超えた因縁、とでも言えばいいのだろうか。
まさか、そんな昔の忘れ物が、今の私たちの取引にまで影響を及ぼすとは、人生、本当に何が起こるかわからない。
せめて、所有権を一人にまとめておくこと。その際、各土地に潜む問題には、生きているうちにきちんと向き合い、対応しておくこと。これらは、後世に引き継ぐ上で、いや、自分の人生をスッキリさせる上でも、本当に重要なことだと身をもって学んだ。
農地移転登記の費用と期間
こうして、初めての農地売買は、様々なハプニングに見舞われながらも、どうにかこうにか移転登記までを無事に終えることができた。費用としては、23筆の移転登記で10万円以内。補助金を申請しているので交付決定すれば5万円ほどで済む。契約書などは自分で作成し、行政が行っている無料の弁護士相談を利用してリーガルチェックをお願いしたおかげで、比較的安く済んだ。期間としては3か月はかからなかったが、2か月以上はかかった。
この挑戦を終えて、もし誰かにアドバイスするならば、これだけは言っておきたい。農地の購入を考えるなら、登記簿謄本をあらかじめ自分で確認し、抵当権がついていたり、複数人で所有している土地がないかをチェックしておくことを強くお勧めする。なぜなら、現所有者がご両親から引き継いだ土地の場合、そういった複雑な状況をよく理解せずに所有しているケースがあるからだ。
そして、司法書士の見積もりは最低2つは取ること。都会じゃ当たり前のあいみつも、田舎じゃ憚られる場合がある。
しかし、そこは何とか複数の見積もりを取り、適正価格を知っておこう。
私は今回3つの事務所に見積もりを依頼いたが、1つは23万円、1つは「終わってみないと分からない」と言われた。元々縁があったのは「株式会社終わってみないと分からない司法書士事務所」だったが、補助金関係でどうしても2つ以上の見積もりが必要だったのですぐさま断った。
土地は、見えない歴史をたくさん抱え込んでいる。まるで、地球の地層のように。しかし順序良く丁寧に紐解けば大抵のことは解決できると思う。
時間に余裕を持って取り組むことが肝である。