私たちが住まうこの国で、自然災害はもう、珍しい出来事じゃない。私はその厳しさを身をもって知った。幸いにも多くの方々の支援で農業を再開できたが、その経験は私に一つの、あまりにも率直で、野暮な疑問を突きつけた。
「このままの農業で、また災害が起きた時、同じ悲劇を繰り返さないか?」
環境依存が過ぎる農業のリスク
現在の山間部での栗栽培というのは、その全てが「環境依存型」すぎる。まるで巨大な自然という名の親父の機嫌を伺うような、危なっかしい綱渡りだ。
1.農地へのアクセス
道路が決壊すりゃ軽トラはおろか人さえ入れない。作業は即座に停止する。そして農道の復旧は後回しだ。震災後何度も役場に足を運び担当課に懇願したが、利用者があまりにも少ない農道の復旧は後回しになった。
もうすぐ震災から2年経つが、畑の周りの農道の殆どはフレコンが置いてあるに留まっていて、復旧の兆しは見えない。
2.労力とリスク
果樹栽培の殆どは中山間地域が私の住まう地域の現状だ。急傾斜での草刈りや剪定、収穫なんざもはや重労働だ。さらに地植えであるがゆえに、一度土砂崩れが起きれば、栗の木もろとも奈落の底へまっしぐら。私の畑では土砂崩れに巻き込まれて数本崖下に落としたが、知り合いの農家は50本近く失ったと言っていた。
3.環境の制約
無農薬栽培の生育は、お天道様と虫の機嫌次第。病害虫リスクは、まるで常に背後で舌なめずりしている狼のようだ。さらに、気候変動と言うとてもつもないスケールの変化に抗うには今のままでは到底太刀打ちできない。とは言っても今年の猛暑で何か手を施したかと言えばそうでもない。
結果的に「猛暑の影響は・・・」などと言うだけで、広大な土地と全ての木々に改善策を施す準備はないのだ。
なぜなのか。
それはやはり気候の変化に対応できる仕様で営農されていないからだ。
水が足りない気はするがどこにどれだけ水を与えれば良いのかが分からない。効果が出ているのかは収穫しないと分からないし、環境が複雑すぎて因果も立証しにくい。考えれば考えるほど無駄な労力に思えて動くことが出来なくなる。
この「環境への過度な依存」。これこそが、災害大国日本における農業の最大のリスクであり、持続可能性を阻む最大のネックだと痛感した。この野暮な状況を断ち切るために、私が辿り着いたのが、非常識な「土壌管理」だ。
新営農モデルがもたらす七つの革新
栗の木を「理想の舞台」に導くこの計画は、ただの農業の再構築じゃない。日本の農業が抱える「頑固な土地への執着」をひっくり返す、大いなる挑戦だ。他の農家から見れば「不可能」の所業かもしれないが、これは理詰めの挑戦だと思っている。(ちなみに私は植物工場をつくろうとしているわけではない。)
実際、多くの農業従事者に私の構想を話してきたが、誰一人として前向きな発言をする人はいなかった。「不可能」「あり得ない」などという言葉を腹いっぱい頂いてきた。
下記は私が考える現状に即した理想だ。あくまで理想。
1.災害に負けない農地
耕作放棄された水田跡など、道路アクセスが良い平坦な土地で栽培することで、災害による孤立リスクを回避できる。田舎には耕作放棄地がたくさんあるので、候補地はたくさんある。災害から身を守る現代に即した栗の木の適地だ。(土地の所有者特定と交渉は手間と時間がかかるだろうが…)
2.最適な生育環境の「設計」
樹の成長期には木々を集約し作業効率を図り、成長に合わせて間隔を広げていく。これにより、栗の生育に最も重要な日光が常に最大限に当たる環境を提供し、高品質化を実現する。さらに適時適正間隔を設ける事で病害虫の抑制にも繋がる。
3.労働負荷の劇的軽減
急斜面の作業から解放され、平坦な土地で自走式草刈り機を使えば、草刈りにかかる労力は大幅に減少する。また、果樹栽培に置ける重要な剪定や収穫と言った業務から重労働を無くすことが可能だ。これまで「仕方がない」と目を背けていた農業の過酷な労働環境に、改善の一手をうつことができる。高い安全衛生基準の設置と意識は労働者の安全を守ることに繋がる。
4.無農薬栽培の確実な実現
従来の無農薬栽培の最大の敵であったクリミガやゾウムシといった虫害は、木全体、若しくは果実のみを特殊なネットで覆うことで物理的に遮断できる。これにより、「虫のつかない無農薬の栗」という、新たな「物語」を持った、高付加価値が生まれる。
5.耕作放棄地の即時活用
日本全国に溢れる耕作放棄地は、通常土壌改良に多大な労力を要するが、改良をせずに栗の栽培が出来ればどうだろう。草刈りをして平坦な場所を作るだけで、即座に営農を開始できる。日当たりが良い水田跡は、栗の木にとっての「最高の立地」になる。
6.高品質・高付加価値化の実現
無農薬なのに虫の心配がない栗。という安心感は、品質の護符ともいえる。また、無農薬でありながら虫のつかない栗は、あらゆる副産物を生み出すと確信している。栗の一般的なニーズ以外に関しては、既に確信に迫る部分まで下調べは済んでいる。
7.徹底した管理による品質安定
水分量を自動検出し最適な量を自動で給水する仕組みを導入することで、最適な水分・養分管理が可能となる。これにより、栗の木は管理しやすく、均一で高品質な実を結ぶ。記録は個々に識別されたRFIDに集積され、成長過程は有用なビッグデータとして蓄積される。そしてこの情報こそ最大の商品に変わる。
収穫量への挑戦と未来のビジョン
これまでの慣行栽培の栗の木と、私が考える理想の栽培方法の栗の木。最大の問題は収穫量だ。収穫量は半分以下になる可能性も考慮しているが、上記の七つの革新がもたらす「高付加価値」と「安定した高単価」という名を考えれば、収益は見込めるだろうと考えている。
「収穫量」こそ、私が試行錯誤を繰り返している熱い研究分野だ。まるで、栗の木の生態を解き明かす、地道な探検だ。
しかし、この理想モデルは、災害リスクを乗り越え、労力を削減し、無農薬で高品質な作物を提供するという、私が今まさに必要としている解であり、全国各地での展開が可能だ。
この挑戦は、私個人の事業を超え、日本の栗産業の底上げと、持続可能な未来の農業を実現する計画だと確信している。管理がしやすいこの特殊なシステムで育てられた栗の木は、必ずや極めて高品質な実を結ぶだろう。
自然の厳しさから学んだ教訓をバネに、私たちはもっと賢く、もっとタフに立ち向かわなくてはならない。山での仕事は、自然との対話。だが、私たちは自然の「機嫌」に全てを委ねてはならない。