能登はまたしても豪雨に見舞われた。
8月の半ばというのに、空は鉛色に重く垂れ下がり、けたたましい音を立てて雨粒が地面を叩きつける。本来なら、からりとした夏の空が広がり、海から賑やかな声が聞こえてくる頃だというのに。
農道は無事だろうか。いくら日本笑顔プロジェクトの協力を得て啓開したとはいえ、あれはあくまで応急処置だ。去年の地震と度重なる豪雨で、あの細道はもうぼろぼろでいつ崩れてもおかしくはない。
「大丈夫だろう。」
そう無理に自分を納得させようと、楽観的な考えで不安に蓋をする。だが、胸の奥底ではひどく嫌な予感を抱えたまま車を走らせた。
「え、畑より手前で?」
胸が締め付けられ、心臓がどくどくと不気味な音を立てる。何とも言えない不快感が胃の奥からこみ上げてきて、思わず吐き気を催した。
農道よりもずっと手前の道で土砂崩れが起きていた。農道ばかりに気を取られていたが、当然このリスクもあり得た。いくら農道が無事だったとしても、その手前の大きな道が通行止めになってしまえば、畑にたどり着くことすらできないのだ。去年の地震の時は、まだ歩いて畑に向かうことができた。だが、今回は違う。畑よりずっと手前、遠くで足止めを食らってしまったのだ。
車を降り、現場の責任者らしき人に声をかけた。
「なんとか2日で交互通行にしたいと考えています。ご迷惑をおかけしますが、ご協力お願いします」
そう言われ、私は驚きで声が出なかった。とんでもない。崩れた土砂を見て一瞬絶望しかけていたが、まさかこんなに早く対応してくれるとは。心強い言葉をもらい、感謝の気持ちしかなかった。
だが一方で、胸の奥底にくすぶる不安は拭えない。この先の農道は無事だろうか。無事であって欲しいと願う一方で、最悪の事態が頭から離れないのだ。
私は迂回路を使うことにした。 この道は昨年の地震で、数百メートルにわたる大規模な土砂崩れが起き、長い間通行止めになっていた場所だ。一年以上も通っていなかったが、もしかしたら土砂は撤去されているかもしれない。そう思い、久しぶりに車を走らせた。

土砂はきれいに撤去され、道は通れるようになっていた。しかし、大規模な土砂崩れがあった現場だけに、今回もアスファルトの上には濁流のような川ができていた。
何の災害も経験していなければ、こんな光景も笑い話にできるだろう。だが、一度でも最悪の事態を経験すると、足がすくむ。脳裏には最悪のイメージがこびりつき、体が動かない。
この道は止めよう。もう少し様子を見て、落ち着いてから通ることにしよう。
私はそう決めて、車をUターンさせ、一度家に戻ることにした。